スーパーマーケットに一歩足を踏み入れると、実に様々な音に溢れていることに驚かされる。
魚売り場では「おさかな天国」、精肉売り場では「ジンギスカン」総菜売り場では「コロッケのうた」が定番だろう。他にもホクトの「きのこの唄」や「ポポポポポー」の音が鳴る例の機械(呼び込みくんというらしい)など、売り場ごとに多彩なメロディで商品をアピールしている。
そんな独自の文化を形成しているスーパーマーケット音楽であるが、店舗のブランドごとに作られたイメージソングについては特筆すべきだろう。流れる曲で客の購買意欲が変化するという話も聞いたことがある。イメージソングを聴けば、店舗ごとのアピールポイントがわかるのではないだろうか。今回はそんなスーパーマーケットのイメージソングについて語りたい。
もくじ
- ライフ(本社・大阪市/台東区)
- サミット(本社・杉並区)
- CGCグループ
- AJS
- ダイイチ(本社・北海道)
- ユニバース(本社・青森県)
- グランマート(本社・秋田県)
- イオンスーパーセンター(本部・岩手県)
- カスミ(本社・茨城県)
- ベイシア(本部・群馬県)
- ベルク(本社・埼玉県)
- アピタ・ピアゴ(本店・愛知県)
- 平和堂(本社・滋賀県)
- イズミヤ(本社・大阪府)
- マルイ(本部・岡山県)
- ラ・ムー(本社・岡山県)
- フジ(本部・愛媛県)
- エレナ(本社・長崎県)
- ダイマル(本社・鹿児島県)
ライフ(本社・大阪市/台東区)
まずは西日本の雄・ライフの「ライフコンセプトソング」。店舗数は怒涛の280。東証一部上場の一大スーパーマーケットチェーンだ。調べて初めて知ったが、大阪と東京の2本社体制を敷いているらしい。確かに近畿圏と首都圏でよく見る印象だ。対象の商圏も大きいので、馴染みのある方も多いであろう。そうでない方もまずはお聴き頂きたい。
動画の説明文には「ライフが目指す姿『ライフらしさ』を表現したコンセプトソングです。」とある。おだやかな曲調で、利用客が楽しく買い物している姿が頭に浮かんでくる。
名前を聞いたことのない人もどんなスーパーマーケットなのか想像できたのではないか。歌詞には「ライフ ライフ for everyday」「ライフ ライフ for smiley day」とあるが、普段使いできるスーパーであることが分かるし、買い物で明るい生活が生まれることも想起される。
曲の完成度からもわかる通り、ライフはイメージソングや広報に力を入れているらしく、マスコットキャラクターのララピーによる「ララピー体操」もある。ララピー体操は「第2」まであって、ライフではこの3曲がヘビロテしているような気がする。
サミット(本社・杉並区)
ライフが体操なら、サミットはダンスで勝負だ。
東京都を中心に展開するサミットの「サミットファンの歌」はYoutubeでダンスバージョンが見れるのだが、かなり力がこもっている。是非観てほしい。
先ほどのライフよりもポップで、歌詞にはミックスジュースやシーフードピザなどの言葉が並び、品ぞろえの豊富さが伝わってくる。さて、この映像だが、各店舗のスタッフが出演している。鮮魚部、ベーカリー部くらいまでは分かるが、役員や経理部など全社揃い踏みで登場しているのは、気合の入りようを感じさせる。店舗開発部に至っては服装がタンクトップにヘルメットで、背景には重機!実に様々な人々が出ていて、普段利用している裏側にはこれほどのスタッフが関わっているのかと驚かされる。総出演でダンスを踊る様子はスーパーマーケット界の『恋するフォーチュンクッキー』と言っても過言ではないだろう。
ノリノリな店舗もあれば、ネギなどの小道具を駆使する店舗、ダンスに徹する店舗など、店舗内の人間関係が垣間見えるのもいい。特に、南加瀬店のパートで作詞者の林さんがメロンを持って登場したところにはぐっときた。最後は「サミット全店長」でフィナーレ。映像作品として観てもかなり凝った出来で、ほかにも小ネタが仕込まれているので是非全編観てほしい。ただ、なぜここまでするのかは謎である。
ちなみに、サミットの公式サイトでは曲がダウンロードできる。至れり尽くせりだ。
CGCグループ
続いてはCGCグループ。206社からなるスーパーマーケットの連合で、多くの会社が集まって商品の共同仕入れやプライベートブランドの開発をしている。
北海道から沖縄まで4172店舗(2021年5月1日時点)を数えることから、意図はせずとも一度は加盟店舗に行ったことがあるという人が多いのではないか。
そんなCGCグループのイメージソングがこの「CGCソング」だ。個人的にもこの曲が一番なじみ深い。サザエさんの声優の加藤みどりによる商品紹介の「エプロントーク」とセットで聴いていた思い出がある。
歌詞に注目してみると、ライフやサミットとはまた異なる印象を受ける。
「互いに役立てありがとう」は商品の共同仕入れをしているからこその目線だろうし、「安い」や「便利」のフレーズもそれによるコストメリットを体現していると考えれば合点がいく。あまり具体的なイメージを出さないのも、様々なブランドのスーパーで流れるため、汎用性の高い作りにしているからではないか。映像で、歌っている中平マリコがスタジオから店頭にワープするという演出も見どころだ。
AJS
CGCのライバルAJSにもイメージソングはある。プライベートブランドの「くらし良好」でおなじみAJSは56社3634店舗(2021年4月現在)を展開しており、イメージソングもそのまま「くらし良好のうた」である。
曲自体は2014年誕生でかなり新しい部類に入るが、キャッチーな曲とキャッチーな歌詞で耳にも残る。AJSがCGCのライバルという背景を鑑みると、イメージソングで対抗しているようにも思えてくるから不思議だ。
しかし、歌詞の内容を読み解くと独自の世界観が伺える。「スーパーマーケットに楽しさあふれてワンダーランドみたいなキラキラはじけて」と夢のような売り場の光景を歌ったと思えば、一転「きょうをあしたへつなげたい」というフレーズで
締められる。改めて考えてみると解釈が難しい。果たして誰の目線で「きょうをあしたへつなげたい」と語っているのか。大変気になるところである。
ダイイチ(本社・北海道)
地方のスーパーにも目を向けよう。
まずは北海道で展開するダイイチのテーマソングをお聴き頂きたい。
少し懐かしさも感じられる曲だが、なんと模範的なイメージソングである。買い物の情景、具体的な商品(野菜サラダ、フルーツ)、伝えたいメッセージ(新鮮、安全、清潔)のスーパーマーケットのイメージソング3要素(と勝手に呼んでいる。今決めた)が全て入っている。
この基本形を頭に入れたうえで、ほかの都府県のスーパーマーケットのイメージソングも見ていきたい。
ユニバース(本社・青森県)
一方、メッセージ性が抜群なのが、青森のユニバースである。
曲のタイトルは「とても幸せ。」
歌詞には「お昼下がりの日曜日 家族そろって お買物」「持ちきれないほど野菜を抱え 私、幸せ」とあるように、前半は子供を持つ親目線になっている。後半は一転ユニバース視点となり、「元気に育てて のびのび育て 応援するよユニバース」。子育てに奮闘する親に対するメッセージを越えて、もはや語りかけだ。
ここまで大々的に応援するよと言っているから、その応援に期待して通うようになるのかもしれない。
グランマート(本社・秋田県)
次は同じく東北のグランマート。
注意深く歌詞を読み込むと、買い物に対する熱意が段違いに高いことに気づく。
朝7時に買い物の準備をはじめたり、スーパーマーケットでデートしたり、挙句の果てには「このカゴ2つで足りるかな」である。
ちょっとしたテーマパークの楽しみ方ではないか。東北のスーパーマーケットはどこもこれほどの熱意に溢れているのだろうか……?
イオンスーパーセンター(本部・岩手県)
同じ東北でも前の2つとは対照的なのが、イオンスーパーセンター。
イオン系列のスーパーマーケットは複雑で、マックスバリュ、まいばすけっとなどのイオン色の強いブランドに加え、カスミ、マルエツ、ダイエーなど独自色の強いスーパーマーケットが入り乱れているが、ここでは「東北のイオン」ぐらいの認識でいいだろう。
曲名は「おどろきも♪やすらぎも」。スーパーマーケットの情景がまったく歌詞に組み込まれていないのは驚くべきことだ。最後の「イオンスーパーセンター」の連呼こそあるものの、「おどろき」と「やすらぎ」中心の構成となっている。
「シュビドゥビドゥバ」から始まり、「洗いたての新しいシャツ」や「コーヒーのいい香り」など買い物ではなく、家で過ごしているような情景が感じられる。ライフが買い物中、グランマートが買い物前後を描いたとして、暮らしそのものを描くというのはまるで純文学だ。
「変わらないまいにちも変わってくまいにちもどっちも大切だから」このフレーズを心に留めてわたしも生きていきたい。
これでも成立するし、伝わるものがあるのだから、スーパーマーケットのイメージソングの世界は奥深いと感じる。
カスミ(本社・茨城県)
茨城県を中心に首都圏に展開するカスミは創立50周年を記念してイメージソングの歌詞を公募していた。その歌詞が使われているのが「カスミのうた」である。
「カスミは大きなお弁当箱 みんなの笑顔がつまってる」とはなかなか上手いことを言ったもんである。公式ホームページではmp3データが提供されており、サミット同様ダウンロードも可能だ。似たような業界で家電量販店や地方自治体などもオリジナルソングを持っていることが多いような気がするが、なぜかスーパーマーケットにはダウンロード文化があるようだ。
2000年代初頭のインターネットにはCMやテーマソングをダウンロードできる時期があったが、(親切にナローバンド向けとブロードバンド向けが用意してあることもあった)その残り香を感じる。
ベイシア(本部・群馬県)
同じく北関東を代表するスーパー・ベイシアもHP上で大々的にオリジナルソングを掲載している。
記事のタイトルは「店内放送ベイシアオリジナルソングをWebでもお聴きいただけます!」で、URLは「https://www.beisia.co.jp/news/店内放送ベイシアオリジナルソングをwebでもお聴」である。聴いてもらいたい気持ちが溢れてしまっていて、聴いてあげたい気持ちになってくる。ちなみに、オリジナルソングの長さは19秒だ。宣伝に対して秒数が短くないか。心配になってくる。
ベルク(本社・埼玉県)
続いては埼玉県が本社のベルク。
正統派の安心する曲調だが、どことなくオリンピックや万博、公官庁っぽさが見受けられる。埼玉は保守的なので、曲も硬いのだろうか。公式ホームページからはもちろんダウンロード可だが、通常バージョンに加え、インストゥルメンタルとボサノババージョンもある。偉い人が会議で「この曲は硬いから柔らかくしたいね」と話し合ったんじゃないか。そこでボサノババージョンを提案した人がいるとすれば、なんとも微笑ましい。
アピタ・ピアゴ(本店・愛知県)
かつてサークルKを日本に進出させた、中部の一大企業ユニーのアピタ・ピアゴにももちろんイメージソングはある。
www.uny.co.jp正確に言えば、「アピタ・ピアゴ愛唱歌」なのだが、おそらくその中の「ハッピーラッキーアピタン」がイメージソングに当たるのではないかと思われる。アピタ事情に詳しくないので推測になってしまうが、大目に見てほしい。
内容はというと、未来からやってきたかわいい未来リス・アピタンの歌になっている。「アッピ! ハッピー! アピタ~ン」の部分なんかは「ハッピー」と「アピタ」のフレーズをなんとかして関連付けさせようとした苦労の痕跡が見える。これがイメージソングとして意図されたものなのかはさておき、アピタン全振りの企業姿勢はよく分かる。ちなみに妹はピアタンで、二人とも未来の国アピタンワールド出身らしい。メモしておこう。
平和堂(本社・滋賀県)
滋賀県を中心に157店舗を展開する平和堂は「かけっことびっこ」がイメージソング。
youtubeにアップロードされている動画の構成はサミットと同じく各店舗のスタッフが参加するスタイル。
しかしながら、昭和っぽい曲のせいか、画質のせいか全体的に学芸会っぽさが感じられる。同じスタッフが二度出てくるのはいいとして、途中で彦根城が倒れるのはわざとなのだろうか。(これが逆に味を出しているとも思える)
動画はチープだが、スーパーとしてはいいスーパーなのはきちんと断っておきたい。夏に買い物に寄ったときに、地蔵盆(近畿圏などにみられる子供のお祭りらしい)の特設コーナーがあって、関東出身の自分は驚いた思い出がある。ちなみに公式ホームページからダウンロードもできるので、こちらもチェックしてほしい。
余談になるが、平和堂には公式V-tuber・鳩乃幸(はとのさち)というのがいるらしく、キャンペーン情報や商品の紹介をこまめにアップロードしている。鳩乃幸がバズった日には、次のトレンドはスーパーマーケット系Vtuberなんてこともあるかもしれない。
イズミヤ(本社・大阪府)
創業100年を迎えた大阪の大御所・イズミヤも負けてはいられない。
イズミヤには「イズミヤソング」と題されたイメージソングが3曲もある。歴史がある故か。3曲ともテイストの差こそあれど、どことなく昔の教育テレビ感がある。最近の洒落たEテレではなく、にこにこぷんあたりの教育テレビ感だ。特に「お散歩気分で」は子供の頃に幼児番組で観た記憶がありそうな感じがする。イメージキャラクターのええもんキーのゆるさも相まって、ほがらかなノスタルジックに浸ってしまった。スーパーマーケットのイメージソングはどことなく古めのものが多い気がするが、一曲を長く使い続けたりすると、自然とそうなってしまうのかもしれない。
マルイ(本部・岡山県)
岡山県を本拠として、山陰地方にも店舗を置くマルイ。新潟県にも同名のスーパーマーケットがあるが関係はない。
曲は正統派のように思うが、ゆったりとした印象を受ける。
こうしたイメージソングの味付けは地域性が出るのだろうか。無理やり分類すると、メッセージの東北、王道の関東、バラエティの近畿……といったところか。いや、違う。それとも、価格帯か店舗の広さか、はたまた創業年数か。近いところで同じ岡山県のスーパーマーケットと比較してみたい。
ラ・ムー(本社・岡山県)
ということで、岡山県のラ・ムーである。実際に訪れたことはないが、弁当が安いで有名とのこと。
びっくりするのが、この映像が公式である。社員総会か何かの一幕だろうか。
今までのスーパーマーケットのイメージソングとは一線を画す歌である。マルイとは同じ岡山県でもまったく違う。安易に分類しようとした自分がばかだった。
とはいえ、傾向として東の方がまじめで、西の方が好き勝手やっているような気はする。ちなみに、この曲も例に漏れず、公式ホームページからダウンロードできる。スーパーマーケットのイメージソングだけを集めたアルバムを作るなら今しかない。
フジ(本部・愛媛県)
さて、そのフジであるが、なんとイズミヤを凌ぐ4曲がテーマソングとして紹介されている。真面目な曲もあれば、意味不明な曲まであり、バラエティに富んでいる。「夢見ようトゥモロー」はなぜか歌詞が英語でその後日本語で歌いなおす奇抜さがあるが、一押しは「ハッぴぃショッぴいフジッぴいのテーマ」だ。詳しく説明するのは難しいので一度聴いてほしい。店頭に流れているとたしかにテンションが上がると思うが、単体で聴くと訳が分からん。店舗の特色か。
意味のわかる単語が「サイ」と「イエイ」しか出てこない。これは天才の仕事というほかない。
エレナ(本社・長崎県)
次は長崎県のエレナ。44店舗を展開し、AJSの加盟店でもある。
実をいうとここまで紹介してきたスーパーマーケットの中で、実際に足を運んだことのあるのは半分ほどしかなく(それでも多い気はするが)、エレナにも行ったことがないのだが、曲を聴くことで実際に買い物をした気持ちにもなるというものである。
ホームページをみるに、赤い象がトレードマークらしいが、曲はどうだろうか。
タイトルは「象が飛んでいた」である。
曲を聴くのが一番だが、忙しい方のために抜粋して説明すると「空を見上げたら 夕焼けの真ん中に 象が飛んでいた」ので「急にパオパオと 嬉しく」なっている。国語の文章題に出てきそうなやけに描写的な歌詞である。たしかに「パオパオ」は何だか知らないが嬉しい感じのする擬音だ。
これは比喩の練習問題に持ってこいではないか。ぜひご覧の教育関係者の方、ご一考を。
店内はともかく、店までの道のりの情景はしっかりと浮かんできましたぜ。
ダイマル(本社・鹿児島県)
ダイマルのイメージソングはまさかのロックだ。ページ下部「Daimaru No Theme II」からご覧いただきたい。
とてつもないインパクトだ。
勢いに乗せて「お肉」とか「魚」とかをシャウトするのは一見おかしみがあるが、聴きなれてくるとイメージソング3要素も抑えてあり、だんだんハマってくる。調べてみると、レッドホットチリペッパーズをオマージュして社員の方が制作したらしい。こういった場で才能を発揮するのもスーパーマーケットのイメージソングならではであろう。
気づけば日本列島の北から南までイメージソングを紹介してきたが、まだまだイメージソング自体はたくさんある。ざっと調べただけでも、ヤマザワ、ヤマイチ、オークワ、アルゾ、万惣、ゆめタウン、サニーマート、サンシャイン……等々限りなく出てくる。先述した通り、公式ホームページなどで音源が上がっていることも多いので、ぜひこの機会に、自分のゆかりのある地域のスーパーマーケット音楽と触れ合ってほしい。
次回はスーパーマーケットで流れるオルゴールの懐メロ特集でお会いしましょう。