みなさんは「ポートストア」というコンビニをご存じだろうか。
何年か前に東京・辰巳へ水泳大会を観に行ったときに偶然見かけ、衝撃を受けた。
看板には「PORT STORE」と書いてあるが、どうみても見た目がローソンなのだ。
パクリにしては堂々とし過ぎているが、名前は違う。調べてみると、ポートストアは東京港湾福利厚生協会が大手コンビニと提携して運営している売店で、協会が非営利なので名前を変えているという。
品川や新木場などのベイエリアには他にも店舗があるらしいので、ぜひ全部まわりたい。ポートストアを巡った夏の思い出をお伝えする。
①日の出店
最初の店舗は浜松町駅から徒歩15分の日の出店。ポートストアは基本的に駅から遠い立地のことが多いので、今回は後輩のBくんを呼んだ。
「そういう休日も面白そうですね」
突飛な企画に来てくれるのは非常にありがたい。
上の地図の縮尺で察する方もいるだろうが、これからめちゃくちゃ大移動する羽目になることを彼はまだ知らない。
日の出店は日の出客船乗り場の横にある。
「ポートストア」の名前通り、周囲は港の雰囲気で、乗船待ちと思われる人が行き来していた。
これがポートストア日の出店だ。
見た目は完全にローソンだが、看板はすべて「PORTSTORE」になっている。
フェリーでここに着いたら異世界に迷い込んだと錯覚してしまいそうだ。
営業時間は7時から17時。2階はレストランが入っており、完全なる観光地仕様に思える。
売っているものは普通のローソンだった。
しいて言えば、家族連れが多いこともあり、おもちゃの品ぞろえがいいくらい。
ポートストア限定おにぎりみたいなのはない。残念だが。
②海岸店
「次は海岸店に向かいます」
「名前適当すぎますね」
「ポートストアはだいたい海沿いだからぜんぶ海岸店でいいよね」
と、いちゃもんをつけていると、
地名が「海岸」ということが判明。いい地名すぎる。
そんなこんなでポートストア海岸店に到着。
窓のシールに「PORTSTORE」とあるが、奥の松山ケンイチのポスターには「ローソン」と書いてある。すべてが間違い探しみたいだ。菅田将暉の言っていた「まちがいさがしの間違いの方に生まれてきたような気がする」とはこの感覚なのではないか。(絶対違う)
都内のコンビニには珍しく大きな駐車場も完備。店内にはガラスコーティング剤や車の芳香剤などのカー用品が並んでおり、オフィス街のコンビニとは違うということが見て取れる。
休憩中の運転手がメインターゲットなのだろうか、店の脇には広い休憩スペースがあって、誰かが落とした弁当のかけらをハトとスズメがつついていた。
「道にこんなのが落ちてました」
戯れに母を背負いてそのあまり軽きに泣きて三歩歩まず 石川啄木
誰が何を思って短冊に書いたのだろうか。
③品川店
品川まで歩くと、にわかに倉庫や運送会社が増えてきた。
ふと見上げるとモノレールがフォトジェニックな感じを漂わせていたりするが、とにかく歩いている人が少ない。
まわりにはコンテナが積み上げられ、街の雰囲気も工業っぽさが増していく。
東京にもこんなエリアがあるんだと気づかされる。
ポートストア品川店は淡い色のオールドスタイルのローソンに近いが、相変わらず看板の文字は「PORTSTORE」とある。床屋と宿泊施設が併設されており、いままでの店よりもよりディープな雰囲気を感じるが、私たちは見逃さない。
おなじみの松ケンの下には「LAWSON」の文字が……!
感覚が研ぎ澄まされてきたのか、先ほどの店舗ではポートストア仕様だったところに、「LAWSON」の表記を見つけるだけで、隠れミッキーを見つけたかのような嬉しさを覚える。
商品にもポートストアらしさが色濃く出てきた。なんと棚にボディシートが56列配置されていた。仮に1列5個で40枚入りとすると、この店だけで11200枚のボディーシートがあることになる。別の日に行ったドラッグストアはこの半分だった。
店の前の広い休憩スペースで休憩する。
店内には他にもカー用品や軍手なども揃っており、もちろん駐車場は完備である。やや地方っぽさを覚えるが、もしかしたら地方の国道沿いにはこれに近い店舗があるのかもしれない。完全な旅気分である。
④有明店
ここで天王洲アイル駅から国際展示場駅まで電車で移動する。目指すはお台場だ。
国際展示場駅で繁盛している通常のローソンに遭遇して、思わず懐かしさすら覚える。
人の少ないゾーンばかり歩いてきたので、人がいると安心する。
「全部やめてこの芝生で寝たいな」
「わかります」
お台場は観光地のイメージがあるが、少し歩くとそうしたイメージとはかけ離れたエリアに入る。
「この椅子はなんなんだろうか」
「物語性がありますね」
さらに南側に行くと有明店があるはずなのだが、
ここで関係車両以外進入禁止となるので断念。次の店に進む。
⑤辰巳店
さて、冒頭の写真にもあった辰巳店である。
電車で新木場駅まで移動して、電動自転車を借りる。
辰巳店は東京辰巳国際水泳場のすぐそばにあることもあって、水泳部らしき学生たちで溢れていた。棚にはプロテインバーと大豆バーは合わせて42列、カロリーメイトは16列、ポカリとアクエリアスは合わせて20列と品ぞろえはばっちり。
近くに大きな公園もあるので、木炭や野菜、大きなマシュマロなどのバーベキュー用の商品も揃っており、更には軍手や安全靴など港湾関係者向けの品も置いてあった。
「看板だけが違うのかと思っていたら、軍手とかの商品でもポートストアらしさが見えるな」
「同じポートストアでも街ごとにカラーが違って面白いですね」
数店舗まわっただけで評論家気取りなのはどうかと思うが、少なくとも関係者以外で一番ポートストアを巡っているのは自分たちではないか。ポートストア特集のコメンテーターでテレビに呼ばれる日もそう遠くはないのかもしれない。
⑥若洲店
さて、若洲である。ここまで品川やお台場など東京に住んでいる人なら多少は馴染みのある(住んでない人もテレビやウェブで見たことのあるだろう)地域を歩いてきたが、若洲はあまり聞き覚えがない。
同じ埋め立て地の品川やお台場がビジネス街や観光地としての側面を持っているのに対して、若洲は木材関連の施設や公園が多く、さきほどまでに輪をかけて道を歩いている人が少ない。
若洲店の目の前には若洲海浜公園がある。釣りやバーベキューが楽しめるほか、ヨット訓練場もある。海には船が浮かび、対岸には東京へリポートから飛び立つヘリコプターも見えた。やけに乗り物が多い。先ほどからモノレール、重機、電動自転車など乗り物の絵本に出てくるものはコンプリートする勢いだ。港湾部ならではの光景かもしれない。
実はポートストアはローソンとファミリーマートの2種類が存在し、どちらもポートストアの名前で営業している。過去にはサンクスやヤマザキショップもあったという。
ローソンのポートストアを見慣れたかと思ったら、またしても違和感が強い。
さて、店内だが公園の目の前ということもあり、釣り用品が充実していて、イソメやコマセなどの釣り餌に加え、重りや仕掛け、更にはロッドと竿、バケツまでも取り揃えていて、もはやこの店舗だけで身支度ができるように感じる。
レジャーシートや木炭、クーラーボックスなどもあり、公園利用者を狙いに狙った品ぞろえだ。休憩スペースにはソファーがあって、ゆっくり休めるのも嬉しい。
⑦大井SC店
次は若洲と反対側の大井へ移動。
ふたたび電動自転車を借りてポートストアに向かうが、さすがに疲れてきた。
途中、東京貨物ターミナル駅を横断する。大井周辺は物流倉庫が多く、右を向いても左を向いても倉庫といった様子だった。上を向くと飛行機が飛んでいる。
大井SC店に着く。
注目すべきは圧倒的なCDとDVDのラインナップだ。高速のサービスエリアでしか見ないあの棚が置いてあるとイメージしてほしい。山口百恵、松田聖子、吉幾三、美空ひばり……。往年のアイドルと演歌が中心だったが、若いとことだと倖田來未やEXILEもあった。
港湾関係者向けのコーナーも特に大きく、安全靴の在庫を数えると36足あった。
店頭の「カー用品&トラック用品販売中」というポスターからも分かるように、カー用品も怒涛の品ぞろえで、「マーカーランプ」という謎の用品までもが販売されていた。
たまに側面がピカピカしているトラックを見かけるが、あのピカピカしているランプを売っているらしい。そんなものまであるのか、ポートストア。
ところで気になるのが看板の違和感。
ローソンのポートストアよりも違和感が増している気がしないだろうか。
本来のファミリーマートは小文字中心だからか、コンビニに「О」が付くのが珍しいのか、なんとなくバランスの悪さを覚える。
⑧大井南部店
大井SC店からやや南に進むとあるのが大井南部店である。
4階建てビルの1階に入っており、ポートストアとしてはめずらしく休憩スペースがない。もちろん軍手や靴などのグッズはあるのだが棚は狭く、雰囲気もだいぶ普通のファミリーマートに近い。店内放送では合宿免許ワオの宣伝をしていて、ここまでくるとほぼ100パーセントファミマだ。
ところで、ポートストアに寄るたびに何かを買うようにしていたのだが、1日で何店舗も巡っているせいでここにきて買うものがなくなってきた。ドリンクの予備もまだ残っている。ポートストア巡りの思わぬ弊害だ。
結局、ファミリーマート限定のポテトチップスがあったので買った。
なんだかんだ欲しいものは出てくるのかもしれない。
⑨城南島店
1日の最後を締めくくるのは城南島店。
大井からさらに南、羽田空港に近いあたりにある。
今まで巡った中で一番面積が広く、ポートストア感も強い。
特筆すべきは付近に城南島海浜公園があるからかおもちゃのラインナップが強い。
水鉄砲は6種類あるし、バドミントンも花火もある。
面白いのが、看板が見えない方向に追加の看板が設置されていた。
優秀な担当者がいるのだろうか、芸が細かい。
9店舗のポートストアを紹介してきたが、どの店舗も個性的でそれでいて、ポートストアらしさを感じることができた。巡るのにかかった時間は9時間。飛行機なら羽田からインドに着いてしまう。
無事巡りきったことを労い、平和島で祝杯を挙げて、この日は解散した。
ありがとう、ポートストア。フォーエバー、ポートストア。
と、この記事は終わるはずだったのだが、
その日の夜、撮影した写真と地図を見直していると、ある事実に気づいた。
「1店舗まわり忘れてた……」
「OH……」
この記事はもう少し続くので、お付き合いいただきたい。
⑩青海店
翌週。
前回とは打って変わっての雨模様に気分は沈む。
東京テレポート駅から歩いて現地を目指すが、
左手にはトヨタの自動車テーマパークだったメガウェブが絶賛取り壊し中。
実はパレットタウンと呼ばれるエリアが再開発の真っただ中で、商業施設のヴィーナスフォートは3月に閉館。観覧車も8月に営業終了するという。子供の頃によく行っていたので、こうして壊されるのをみるとノスタルジーを感じてしまう。
青海店は東京港サービスセンターの建物の一角にある。
横の食堂は土日が定休日でやっていなかった。
カー用品や軍手などはもちろん完備していたが、ポートストアにしてはお菓子が多い印象を受けた。カルパスやヤングドーナツなどが箱で置いてあり、30個入りのうまい棒は20袋あった。もはや菓子問屋に近い。
近くにフジテレビの湾岸スタジオがあるから、その需要があるのかも知れない。
Lチキを買って雨の中食べた。
なにはともあれ東京のポートストアはこれで全店舗紹介できたので、良しとしよう。
■まとめ
さて、全部まわったと思われたポートストアだが、「東京のポートストアはこれで全店舗紹介できた」と書いた。実は横浜には横浜福利厚生協会によるもの運営しているものが4店舗あるらしい。横浜のポートストアについても触れたかったが、そこまで手を広げられないくらい東京のベイエリアはめちゃくちゃ広いことが、ポートストア巡りをして分かった。
1000万の人口がいるのだから、それに対して倉庫やコンテナがめちゃくちゃ必要だとはなんとなく思っていたが、それにしても予想以上だった。ポートストアの周辺はとにかく物流の街といった感じで、この記事を書かなければ一生行かなかっただろう。たまに他のコンビニも見かけたが、より深いエリアには必ずポートストアがあった。
もしかしたら利益度外視の店舗もあるのかもしれない。広い休憩スペースや仕事に必要なグッズを気軽に買えることは多くの客が助かっただろうと推測する。ポートストアは陰ながら東京の物流を支えていた。
ありがとう、ポートストア。フォーエバー、ポートストア。