電車待ちに読むブログ

カレーのおいしい季節です

あのエネオスは元々どのブランドだったのか

ガソリンが高い。ちょっと前までレギュラー120円くらいだった気がするんだが。

ガソリンスタンドの看板をよーく見ていると、街中のスタンドがうっかりしているうちにエネオスだらけになってきていることに気づく。

これも。

これも。

これに至ってはエネオスの奥にエネオスが見える。

このままだと全部のガソリンスタンドがエネオスになってしまうんではないか。

公式ホームページによれば、エネオスの系列給油所数は1万2千か所以上。さらに国内燃料油販売シェアは約50パーセントを占めるという。*1

なぜここまでエネオスがシェアを伸ばしたのか。簡単に説明すると、石油などを輸入・精製して販売を行う石油元売の統合がここ20年ほどで進んだからだ。

1999年に日本石油三菱石油が合併。2002年に統合ブランドであるエネオスが誕生して以来、九州石油(2008年)、JOMOのジャパンエナジー(2010年)、ゼネラル・エッソ・モービルを手掛ける東燃ゼネラル(2017年)などを吸収しエネオスは拡大を続けてきた。最近見ないと思ったブランドが下の図に入っているなと思った人も多かろう。

ところで、エネオスの看板って何種類かあることにお気づきだろうか。

左は正方形、右は明らかに縦長で、簡単に区別がつくレベルで違う。

実はこの看板の形から元々のブランドを見分けられることがある。

正方形は元・日本石油、縦長は元・三菱石油だというのだ。

調査の結果、ガソリンスタンドの見た目からエネオスが元々どのブランドだったのかがある程度把握できることが分かった。消えていった8つのブランドとともにそのメカニズムを紹介したい。*2

 

日本石油

現在のエネオスに連なる本家本流といえば、日本石油といって過言ではないだろう。ティーンエイジャーのみんなには馴染みのない話で申し訳ないが、20年前まで存在していたガソリンスタンドのブランドだ。赤い太陽を思わせるサンライズマークは今見てもかっこいい。

ロゴの下に小さい看板があるのは日本石油時代の痕跡である可能性がかなり高い。ちなみにFCは法人向けのFCカードの略だ。

設立はなんと1888年明治21年)。2代目総理大臣・黒田清隆はこの年の就任であるから、歴史の長さが伺える。

 

ブランドの統合から20年たつが、未だに当時のものを流用したと思われる看板を見つけることができる。もちろん途中で改修される場合もあるので、現在の見た目から痕跡を探せない場合も多いのだが、正方形看板+小看板はほぼ確定で元・日本石油といっていいだろう。*3

ところでこの赤い帽子を被っているキャラクターをエネオスでよく見かけるが、自分の記憶が正しければ日本石油時代から存在しているはずである。長年目にしているはずだが、名前が分からない。ネットで調べても確かな情報が出てこないので、誰か知っている人がいれば教えてほしい。

 

三菱石油

三菱石油は名前から分かる通り、三菱系のガソリンスタンドだった。今でもたまに赤いスリーダイヤのガソリンスタンドを見かけることがあるが、そちらは三菱商事エネルギー(元・三菱商事石油)で、実は別会社だ。三菱石油は1999年に日本石油と合併し、しばらくは両ブランドが併用されており、会社名もズバリ日石三菱だった。「日石灯油でポッカポカー」と歌っていた日石灯油のCMの歌詞が急に「日石三菱ポッカポカ」となって、語感の悪さに戸惑った記憶がある。

三角形や帯状などやたら変な形の屋根(キャノピーというらしい)は三菱石油に多いが、どんな意図によるものなのかが気になる。緑とオレンジ、黄色の塗装も目立ちはするが、街中ではなかなか見ないカラーリングで、なぜこの組み合わせを選んだのか?と尋ねたくなる。

三菱石油の看板は上部に黄色い部分があるために縦長になっているので、それを流用したと思われるエネオスの看板ももちろん縦長になっている。が、エネオス成立から20年。ガソリンスタンド自体のリニューアルや看板の架け替えなどで縦長タイプの看板は減少している。給油機やランプなどから元々のブランドを特定する方法もあるが、看板から一目で元・三菱石油を見破ることは今後難しくなっていくに違いない。

こちらは屋根の端が丸まっているタイプ。このタイプも元・三菱石油に多い。老朽化で看板の架け替えが進む今、屋根の形は元・三菱石油を特定する重要な手掛かりになるのではないか。銀色の柱が丸柱なのもポイントだ。

■ JOMO

共同石油日本鉱業(カクタス)が合併し、1993年に誕生したのがJOMOである。個人的に一番デザインが好きなブランドだったが、2010年にエネオスに転換してしまった。縦長看板は三菱石油と書いたが、JOMOもやや縦長で紛らわしいので注意したい。

ガソリンの値段を表示している部分が緑地の看板で、電光掲示板の文字色はオレンジだったが、エネオスになっても残っていることが多いので、このへんが判別のヒントになってくる。

JOMOといえばクラムボンの歌うCMソングが好きだった。

「ガソリンそんなに減ってないけど、親切だもん。今日もやっぱり寄ろうかな」という心地よいリズムとふんわりとした雰囲気の歌は、なぜか今でも記憶の隅に残っているのだが、JOMOの消滅と共にテレビで聞けなくなってしまったのが寂しい。

こちらはガソリン価格が緑地に書かれているので元・JOMOだと分かる。

ほかにも赤いライン部分の痕跡が残っていたり、柱がなんとなく太かったり、看板の上下左右になんとなく隙間が空いているなどの特徴もヒントになるかもしれない。

これは調査の途中に見つけた元・JOMO。ちょうど屋根の工事をしているところだった。緑色の部分は交換されたしまったようだが、電光掲示板の文字色がオレンジであるところから元・JOMOだということがわかる。

さて、屋根であるがよくみると2層になっていることが分かる。ライトが埋まっていたり、吊るしてあったり、屋根が薄かったり、厚かったりすることでスタンドの印象は大きく変わるが、こんな構造になっていたとは。世の中にはガソリンスタンドが専門の設計史がいたりするんだろうか。いたらぜひお会いしてみたい。

 

九州石油

その名の通り九州地方を中心に展開していたのが九州石油である。

STORKのブランドを使うこともあったが、これはコウノトリを意味する。やや薄い屋根とツートンカラーにコウノトリのロゴはなんとなく旅情を掻き立てて、旅先で見かける度になんとなく「自分が知らない街に来ているな~」と感じていた。

コウノトリが渡り鳥だということも関連しているのかもしれない。日本で野生のコウノトリが絶滅してしまったように、九州石油も2008年にエネオスに転換して消滅してしまった。

 

元・九州石油を見つけるのには苦労した。九州に多かったということもあるが、薄い屋根や丸いライトなどの特徴がほかのブランドのスタンドでも見られるからだ。ただ、それらが合わさるとなんとも表現しがたい「九州石油」らしさが出てくるから不思議だ。

ところで、この記事を書くために数百枚のガソリンスタンドの写真を短時間に見比べていたせいか、不思議なことに一目で元のブランドが分かるようになってきた。どこで使うんだこんな能力。

 

三井石油

三井石油三井グループが設立した会社だ。長らく三井グループでおなじみの丸に井桁三の紋章を使っていたが、いつごろからかセルフのスタンドを中心に「MITSUI」ブランドを使う店舗が出てきた。しかし、2014年にエッソ/モービル/ゼネラルのブランドを展開する東燃ゼネラル石油に合併したことでブランドが消滅。さらに旧・東燃ゼネラルの店舗がエネオスに転換したことで、結果的にエネオスになった。

つまり場合によっては、三井石油MITSUI→エッソ→エネオスなどというブランドの変遷を辿っている店舗もあるわけで、塗装のし直しなどの改装費用の心配をしてしまう。

見た目の特徴としては、柱に模様があることが多い。ほかにも看板のロゴの下に棒が一本あることもある。

 

この元・三井石油からは典型的な元・三井石油で、遠くから眺めるだけでも柱の模様と看板の横棒から元・三井石油であると推測できるが、よく見るとさらなる痕跡を見つけることができる。

 

旧・東燃ゼネラル系(エッソ/モービル/ゼネラル)のスタンドでよく見る青い塗装の残った給油機や、ガソリン価格の電光掲示板の側面がMITSUIのブランドカラーの緑であることから、度重なるブランド変更の歴史を感じられる。

 

■ ゼネラル

さきほどから何度か話に登場しているエッソ/モービル/ゼネラルだが、詳しく説明すると面倒なのでざっくり説明すると、元々別会社だったエッソ石油、モービル石油、ゼネラル石油が同じ東燃ゼネラルグループになったのちも3つのブランドを並行して展開していたのがこれらの店舗である。セルフの店舗は「エクスプレス」を名乗ることが多く、「ゼネラルエクスプレス」だとか「エッソエクスプレス」などになっていたが、これらはエネオスに統合後、「Enejet」と名前を変えて存続している。*4

これらのうち三井物産の燃料部を源流に持つのがゼネラルである。エクスプレスはブランドロゴ以外の部分が基本的には共通だが、それ以外の店舗はブランドごとに特徴がある。ゼネラルは屋根が台形のことが多い。また、看板の柱が丸い柱の可能性が高いような気もする。

 

台形屋根は明らかに目立つ。見た目でブランドの特色を出すのにはいい方法だったのかもしれない。しかし、角度によっては「ENEOS」の文字が見にくくなるという弱点もあり、一概にいいとも言い切れない。ゼネラルだったときは問題なかったのだろうが、ブランド転換の難しさを思わせる。

 

こちらは元・エクスプレスの店舗。

明らかにエネオスのロゴ部分が横長になっている。エクスプレスの看板は電光掲示板や「セルフ」の文字など他の部分がすべて繋がっている一体型になっていたが、ブランドによってこのロゴの部分だけサイズにばらつきがある。

これはエッソ/モービル/ゼネラルの看板の縦横比がすべて違ったためだと思われるが、それによって、このスペースには当初ゼネラルの横長ロゴが入っていたと推測できる。

 

■ エッソ

エッソとモービルはアメリカ発のブランドで、そのため他のブランドよりもややシンプルなロゴになっている。エッソの特徴としては立体的なロゴを使っている場合があって、文字と丸い枠が浮き出ていた。

 

その名残なのか、元・エッソのスタンドは上からエネオスのロゴを貼り付けているようなデザインのことが多い。もしかしたら、エッソのロゴにかぶせているのかもしれない。

こうなってくると大変なのがエネオスでロゴを管理している人である。縦長でも横長でも上から貼り付けても大丈夫なように何パターンもデザインを持っていなくてはいけない。これが例えば銀行やスーパーなら余白で調整すればいいだけな気もするが、ガソリンスタンドは既存の看板をそのまま使ったりするのでそれに合わせなければいけないはずだ、と知らない担当者の苦労を想う。

 

■ モービル

いちばん外観がおしゃれなのがモービル。

かなり横長の看板や屋根の裏についている円状の物体などはデザイン性の高さを感じる。

 

このデザインは近未来的なようでもあり、懐かしいようでもあり、いわゆる「レトロフューチャー」に当たるのではないだろうか。レンガ調のサービスルームも調和している。

ガソリンスタンドの店舗部分にはセルフ全盛期の今、なかなか入ることもなくなったが、子供の時にはオイル交換かなにかの時によくいた記憶がある。

古い色やけたポスターが貼ってあることが多くて、ガソリンの鼻につくにおいと自動販売機で売っていたミロの味は今でも覚えている。あれはモービルだったか。

旧・東燃ゼネラル系なので、給油機の青い部分が残っているのにも気づく。

 

では、モービルの看板はエネオスになってどうなったか。下の図をご覧いただきたい。

 

ゼネラルは横長の看板。エッソは外枠がある看板になったのに対して、モービルは特徴を見出せない。どうもエネオスになったときに看板ごと交換しているようだ。

無理やりロゴを変形させてきたエネオスでもさすがにモービルには太刀打ちできなかったか。

 

さて、そろそろエネオスが元々どのブランドだったのか、見分け方を覚えてきたことだろう。クイズを用意したので挑戦してほしい。これが正解できれば免許皆伝である。

 

 

まずは第1問。

これまでの知識を動員すれば分かるはず。

正解は元・JOMO。

濃い緑色の部分があるのはだいたい元・JOMO。

あと、看板の上下左右に微妙に隙間が空いていて枠の色が見えるのも特徴だ。

 

続いて第2問。

こうしてみるとガソリンスタンドのデザインは多種多様なことに気づかされる。

正解は元・三井石油

柱の模様から見分けることができれば正解に辿り着けそうだ。

給油機が青いので、旧・東燃ゼネラル系だろうという点も大きなヒントになる。

 

最後の問題。

これは難しいかもしれない。


答えは元・日本石油

考え方としては、

① セルフのスタンドでエネジェットじゃないので、ゼネラルエッソモービル三井じゃなさそう。

② 看板が正方形なのでJOMO三菱じゃなさそう。

という2点から消去法で元・日本石油でないかという推測ができるはずだ。

とはいえ、オープン当初からエネオスであったり、途中で看板が変わった可能性も否めない。自分も図書館で地図を辿って確証を得た。

 

家の近くのエネオスが元々どのブランドなのか気になってきた方もいるだろうから、かんたんな調査方法を載せておく。来年の夏休みの自由研究などにも応用できるはずだ。

 

① まずはガソリンスタンドを観察して仮説を立てる。

何店舗か見比べていくと看板や給油機などから特徴が見えてくるはずだ。もちろん出入りする車や営業している店舗には迷惑にならないように注意したい。

② ゼンリンの住宅地図や古いカーナビで調べる

図書館に行けば、店舗や施設の名前まで入っている詳細な地図がある。手作業で確認しなければならないのが大変だが、古いカーナビを使えれば検索できるので楽だ。

③ インターネットで調べる

特に役立ったのがGoogleMapのストリートビューgogo.gsのスタンドラリーのページである。スタンドラリーは全国のガソリンスタンドの店舗画像が載っているので、2008年くらいまではこのサイトで辿ることができた。

gogo.gs

 

色々なガソリンスタンドの話をしてきたが、驚くべきはこれらはすべて現在エネオスになっているということだ。あれだけあったガソリンスタンドのブランドはエネオス、アポロステーション(出光興産)、コスモ石油の大手3社に集約されようとしている。

少し寂しさを覚えるが、あの時通っていたガソリンスタンドの面影がどこかに残っていることが分かって、何か勇気づけられたような気もする。

 

感傷的なまとめで終わろうとしているが、この記事は調査と作成にめちゃくちゃ時間かかった。エネオスのロゴだけでもパワポで2時間かかった。イラレで作ればよかった。

 

今後、地球温暖化対策や電気自動車の普及でガソリンスタンドは大幅に減ることが予想されるが、エネオスはどうなっているだろうか。ガソリンスタンドのシェアの十割をエネオスが占めているなんて未来も案外ありうるかもしれない。

 

■おまけ

せっかくなので現在のエネオスのイラストも作った。

改めてみると洗練されたかっこいいデザインのように感じる。

みなさんもぜひ近所のエネオスが元々どのブランドだったのか調べてみてほしい。そしてこっそり教えてください。

 

*1:ENEOSホームページ『数字で見るENEOS』(2022年8月17日閲覧)

https://www.eneos.co.jp/company/glance/

*2:より詳しい話はいくらでもできるが、本稿はここ20年ほどの話を扱うこととする。

*3:ただし、後述する日石三菱時代に設置された元・三菱石油の看板である可能性は否めない。

*4:ただし旧・東燃ゼネラル系でない店舗がリニューアルなどを機にEnejetになることもある。