電車待ちに読むブログ

カレーのおいしい季節です

さよならアシモ

今年2月、ホンダの人型ロボット・ASIMOアシモ)が3月末をもって引退するという衝撃的なニュースが報じられた。2000年のデビュー以来長きにわたり、ロボット界のパイオニアとして愛されてきたアシモ

ファンとしては最後の雄姿を見届けない訳にはいかない。毎日パフォーマンスをしている日本科学未来館とホンダウエルカムプラザ青山の2か所を巡り、引退前の姿をリポートする。

まずは東京・青山にあるホンダウエルカムプラザ青山へ。本社ビルの1階がショールームになっていて、カフェも併設されている。訪れた日は「ASIMO開発の歩み」と題して、特別展示が行われていた。

青山も科学未来館もふだんのプログラムではなく、引退用の公演を行っているそうで、引退がおおごとなんだなと実感させられる。

展示ではアシモ以前のEモデルやPモデルなどの進化の歴史が一目で分かるように歴代のモデルがずらり。一番左にあるE0は1986年のモデル。見た目もむき出しの脚だけで、開発が長い道のりだったことが思われます。

そして主役のアシモ。実は20年以上の歴史の中で定期的に機能がアップデートされていて、左が2000年当時のモデルで、右が2011年に発表された新型とのこと。なんと時速9キロでの走行やジャンプ、手話なども可能になっている。(と、後ろのボードにも書いてある)。

新型アシモの身長は130cmなのでだいたいドラえもんと同じ高さだとイメージしてほしい。並べてみると背負ってるバッテリーパックの大きさや顔のシャープさなどからも技術の進歩を感じる。

アシモといえば、子供たちと広場を走り回っているCMが思い出されるが、当時はきびきびと動く人型ロボットに誰もが驚いていた記憶がある。

自分もイベントなどで何度かアシモのショーを見たけれど、毎回大勢の人だかりができていた印象だ。特に東京モーターショーは、自動車の展示会のはずなのに、アシモのブースが車よりも近づけないということもあった。※写真は2013年の東京モーターショー

 

 

さて、本題に戻ろう。

青山では一日数回ショーが行われるらしく、この日は休日なので5ステージ組まれていた。人気のお笑い芸人並みのスケジュールである。用意された30席は開演前には満員になっていて、立ち見を合わせて70-80人くらいの客が集まっていた。

軽快な音楽とともにアシモが登場すると、会場はみなカメラを構えだした。これが人気芸人なら拍手喝采で迎えられてもおかしくないだろうが、写真を取るのが優先で拍手すら起こらないのは意外だった。芸人よりもパンダに近い感覚なのかもしれない。

ショーはアシスタントのお姉さんとの掛け合いで進み、アシモがホンダのロボット開発の歴史を解説したり、実演をしながらアシモ自身の機能を説明したりといった内容。

アシモは普通にプレゼンが上手だった。発音が明瞭で耳に入りやすいのと、身振り手振りが大きくてわかりやすいからだろう。

アシスタントとの掛け合いも話しているように聞こえるので、見ている方からは生きているのと何ら違わないようにみえる。そう見せるために何重もの仕掛けがなされているのではあろうが。

アシモはジャンプやダッシュ、ダンスなどを難なくこなしていく。

観客の子供からは「すげぇー」という感嘆の声が上がる。

我々は圧倒的な技術力の前には驚くことしかできないのだ。

ボールキックのパフォーマンスもあった。

アシモが蹴ったボールを観客から選ばれた代表がキャッチするというパフォーマンスなのだが、アシモの蹴ったボールはきちんと宙を舞っていった。

片足を上げてボールにぶつかるだけで体勢を崩しそうなところではあるが、それどころかボールを狙い通りの方向にもっていくまでには何度試験を繰り返したことだろうか。

つい開発の苦労について考えてしまう。

ショーも終盤。アシモの技術が自動車や、先日発表されたアバターロボットにも応用されているという話を語るアシモ。「人の役に立つためにロボット開発をしている」と理念を紹介すると、「わたしのステージは終わるけどホンダの研究は続く。これからも応援してくださいね」と健気さを見せる。

そして、最後に伝えたい言葉としてアシモが発したのが、

「ありがとう」

静かに一礼したところで、比喩ではなく涙が出そうになる。

このステージに至るまでにどれだけの技術者やスタッフがアシモを支えてきたのか。

世に出て20年以上第一線で活躍し、最後に盛大なお別れのステージが用意されたということにアシモの凄さを感じる内容だった。

 

これだけですでに十分感動的ではあるが、科学未来館のステージもまた違う良さがあったので紹介したい。

科学未来館のステージも100人以上の大盛況で、中には「引退しちゃうんだ……」というこの場で初めてアシモが引退することを知る声も聞こえた。

青山と違うところを挙げるとすると、科学未来館アシモは「科学コミュニケーター」として働いているというところがある。科学コミュニケーターは展示の企画やイベントなどで科学についてわかりやすく説明する仕事で、アシモは毛利館長に任命式で正式に任命されている。

そのため、青山ではアシモの実演に加えて、ロボット開発の歴史がメインの一つだったのに対し、科学未来館では科学コミュニケーターとしての歩みを振り返る構成になっていた。アシモは青山の家で育ち、お台場で仕事をしていたのか。

なんと実演回数は1万5000回以上。科学未来館の設立が2001年で科学コミュニケーターへの任命が2002年だからほぼ初期メンバーの古株職員だ。オバマ大統領やメルケル首相とも会っている。

ところで科学未来館アシモは胸に未来館のロゴが入っている。

いままではアシモアシモと認識していたのが、ここにきて別個体であることを意識させられる。同じ顔の双子が別々に卒業公演をしているような何とも不思議な気分になった。

科学未来館でも青山と同じく実演があったのだが、特に印象に残ったシーンがある。

左手で三角、右手で四角を作るように腕を動かすと人間はうまく動かせない。

しかし、ロボットは簡単にできるとアシモは言う。

「得意を合わせればいろんなことができるんだ」

これは強烈なメッセージとして心に刻まれた。

これからの人とロボットとの関わり方だけでなく、人間社会に対しても強いメッセージのように感じる。

 

ショーが終わり、記念撮影の時間になるとアシモがピタッと止まる。

まったく微動だにしないアシモを見て、なぜか感慨を覚えた。

さて、科学未来館では特別展「きみとロボット」が行われている。アシモは3月末で引退だが、会期は8月末までとのこと。

会場にはアイボやペッパーなどおなじみのロボットをはじめ、約90種130点が勢ぞろいしている。ロボットといえば、2000年代まではアシモの他にも、トランペットを吹くトヨタのパートナーロボットなどの人型ロボットが多かったのに対して、最近は特定の作業や動作を行うアームやスーツ型のロボットと、コミュニケーションに特化したロボットに二極化している傾向があるようにも思う。これがアシモの言う「得意を合わせる」ことなのだろうか。アシモは引退するけど、今後アシモの技術を受け継いだ素晴らしいロボットたちが世間で活躍を願って。

※写真は延々とディベートをするロボットたち。